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映画の心理プロファイル

『痛いほどきみが好きなのに』(2006 米)

地味な小品ながらも好きな作品のひとつに『スウィンガーズ』(1996)という映画がある。
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                     主演のジョン・ファブロー(左)と、痩せていた頃のヴィンス・ヴォーン(右)

主人公は半年前に別れた彼女のことが忘れられず終始ウジウジしている売れないコメディアンで、
演じているのはジョン・ファヴローという無名の役者(今は、アイアンマンシリーズの監督として有名ですが)。
一見すると、どこといって取り柄のなさそうな映画なんだけど、ふられ男のウジウジぶりに共感を覚え、ついつい最後まで目が離せなくなってしまった。

元々、男という生き物は未練がましくできています。
これは心理学的にも脳科学的にも証明されていることだから、男として生まれたからにはどうしようもない。
その一方で男は見栄っ張りでもあるので、自分の未練がましさ・女々しさをあまり表に出したがらない。
だから、そういう部分を殊更に露呈させる映画は少ないんだけど、『スウィンガーズ』はそれを堂々と出しちゃってる。
そこが、いっそ清々しいんだな(^^ゞ。

だけど、ちょいと痛い映画でもあるので、『スウィンガーズ』に勝る女々しい男の映画は当分出てこないんじゃないだろうか。
そう思っていたら、深夜にやってたこの映画を観て、おおっ!

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原題:『THE HOTTEST STATE』(117分)
監督・原作・脚本:イーサン・ホーク
音楽:ジェシー・ハリス
出演:マーク・ウェバー
   カタリーナ・サンディノ・モレノ
   ローラ・リニー
   イーサン・ホーク

いやはや、『スウィンガーズ』に負けず劣らずのウジウジ未練度120%男が登場するのです。

『スウィンガーズ』は、主演して脚本も書いたジョン・ファヴローの実体験が元になったお話だったらしいけど、
こちらも監督・原作・脚本を務めたイーサン・ホークの自伝的小説の映画化作品らしい。
イーサン・ホーク自身も映画に登場する。だけど、こちらは主人公ではなく、主人公の父親の役。

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アーティストの卵が集まるNYのロウアーイーストサイド。
俳優として芽の出始めたウィリアムは、行きつけのバーでミュージシャン志願のサラと出会う。
惹かれ合う2人。でも、サラは過去の失恋経験から恋には消極的。
そんな中、撮影でメキシコに行くことになったウィリアムは、旅行を兼ねて先に現地入りしようとサラを誘う。
情熱的なメキシコという環境もあって、2人の恋は燃え上がるのだけれど…。

恋の終わりはすぐにやってくる。原因は、ウィリアムがサラを愛し過ぎてしまったせい?
メキシコで映画を撮っている間、ウィリアムはギャラの半分をNYへの電話代に使ってしまうし、たった3時間早く帰ってくるために700ドルも散財してしまう。
日本語タイトル通り、“痛いほど”サラを愛しまくるウィリアム。
そんなウィリアムの執着的な愛に窒息しそうになったサラは、どんどん距離を置き始めるのです。
そこからのウィリアムの行動は、もう“痛い”“切ない”“痛い”の連続。

特に、留守番電話に何度も何度もしつこくメッセージをいれてしまうシーンは痛いのなんの(『スウィンガーズ』にも同じようなシーンがある)。今なら、メールになっちゃうんだろうか。

映画は、なぜウィリアムがそこまで愛に執着してしまうのかも明らかにしていく。
ウィリアムのほとんど狂気ともいえるほどのサラへの執着は、実は子供の頃に味わった両親の離婚という喪失感にあった模様。
特にウィリアムを傷つけたのは、別の女を作って逃げるように去っていった父親の言葉、
「お前が13歳になったら、迎えにくるからな」だった。
父親が大好きだったウィリアムはそれを信じていたのに・・・。ウィリアムは父親に二度裏切られていたんだね。
幼少時代に親の愛を十分にもらえなかった人は、再び捨てられる不安から執着心の強い恋をしがちになるといわれています。

両親を演じるのは、イーサン・ホークとローラ・リニー。この2人の演技がうまい。
だから、ただの失恋物語に終わらず、深みのある作品に仕上がったんだと思う。


原題のthe hottest stateは、ウィリアムの故郷テキサス州を表す言葉だけど、その他に「最も熱い状態(つまり、熱愛)」という意味もあるらしい。

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by kiyotayoki | 2010-09-14 10:46 | 映画(あ行)