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映画の心理プロファイル

『ハーブ&ドロシー』(2008 米)

70席足らずの小さな映画館、渋谷にあるシアター・イメージフォーラムで映画を観てきた。
上映作品は、『ハーブ&ドロシー』というドキュメンタリー。

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原題:HERB & DOROTHY(87分)
監督:佐々木芽生
音楽:デヴィッド・マズリン
出演:ハーバート・ヴォーゲル
   ドロシー・ヴォーゲル

NYの1LDKのアパートに住むハーブとドロシーは一見どこにでもいそうな仲のいい老夫婦。
ハーブは1922年生まれ、ドロシーが1935年生まれというから、この映画が撮られた頃は85歳と72歳ぐらいだったんだな。
定年退職するまでは目立たない郵便局職員と図書館司書だった夫婦がにわかに脚光を浴びたのは1992年。
それまで2人はつましい生活を送りながら、自分の目と足を使って、こつこつと現代アート作品を集めてきた。
それをすべてワシントンにある国立美術館(National Gallery of Art)に寄贈することにしたのだけど、
運び出してみてビックリ!作品数は、な、なんと4000点以上!それが1LDKの中にぎっしり詰まってた。
なので車一台ですむかと思われた運び出しは、結局大型トラックを5台使わないと間に合わないほどだった。
しかも、その中には、クリストとジャンヌ=クロード、ジュリアン・シュナーベル、ジェフ・クーンズ、ソル・ルウィットといった名だたるアーチストの作品まであった。
これには国立美術館の学芸員たちも唖然呆然。一躍マスコミにも取り上げられるようになった。
このドキュメンタリーは、そんな夫婦の現在と過去を淡々と、かつあたたかいまなざしで切り取ったもの。

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ハーブとドロシーが現代アートの作品を集め始めたのは1960年代からだという。
もちろん大金さえ積めば、どんな有名な作家の作品だって買うことはできる。
彼らのコレクションが凄いのは、それらを金にあかせて買ったわけではなく、じっくり何度も何度も見て、気に入った作品だけを手の届く範囲で(自分たちの給料の中から)お金を出して買う、というところにあった。
その選択基準も、好き、美しいはもちろんだけど、「高価でないこと」と「アパートに入る大きさであること事」というのが面白い。
しかも、作品を愛しているから絶対に手放さない。
財産にするためとか、高値になったら売るという発想がないから、所蔵品はたまるばかり。
そして、今となっては価値が跳ね上がり数億円という価値になったコレクションを気前よくポンと美術館に寄贈して、
自分たちは相変わらずマンハッタンの小さなアパートで今も年金暮らしをしている。

最初はどんなガラクタを掴まされるかと及び腰だった美術館側も、その価値を認めてからは態度も一変。
「せめて、お部屋にのんびりできるソファーでも」と、夫婦に謝礼を出すまでに。
ところがところが、彼らはそれを資金にまた壁の隙間を埋めるためにアートを集めだすんだな、これが。
その様は、なんだか自宅を大量のゴミで埋め尽くしてしまう人(ゴミ屋敷の住人)とオーバーラップして見えてしまうのだけれど、彼らと一緒にしてはハーブ&ドロシーに失礼でありましょうね(^^;

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映画では紹介されていなかったので、とても気になったのだけど、
4000点もの美術品で埋め尽くされた1LDKの部屋はどんな間取りだったんだろう。

検索してみたら、監督である佐々木芽生さんの筆によるものと思われる間取り図が見つかった。

う~ん、やっぱり狭い。こんな中にどうやって4000点もの作品を収蔵してたんだろ。
しかも、夫妻は大の猫好き。
猫にとって爪研ぎは日課だけど、作品に被害はなかったんだろうか(^^;猫の名前、アーニーだったかな、アーチーだっけか???)。

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こちらは、2人が絵を見ているところをある作家がスケッチしたもの。
食い入るように見つめるハーブと、ちょっと距離をおいて客観視するドロシー。
気に入った作品を見つけたら夢中になってしまうハーブと、それを冷静な目で値踏みをし作家と交渉するドロシー。
そんな二人だからこそ、4000点以上の作品を、自分たちの望む値段で収集できたんだろうな・・・・そう思わせてくれる絵です。
by kiyotayoki | 2010-12-27 06:32 | 映画(は行)