映画の心理プロファイル

『紅の豚』(1992 日)

a0037414_1814833.jpg
英語タイトル『PORCO ROSSO』(91分)
監督・原作・脚本:宮崎 駿
音楽:久石 譲
制作:スタジオ・ジブリ
声の出演:森山周一郎
       加藤登紀子
       桂 三枝
       上条恒彦
       岡村明美
       大塚明夫

ある方のブログサイトで、宮崎駿監督の作品の中でとても評価が高かった
というので見てみたら、これがスゴクいいんです。今まで見た宮崎作品の中
でもベスト3、いやベスト1かもしれない・・・それくらい素敵な作品に仕上がっ
ています。

お話の舞台は、1930年前後(ってことは世界中が不況だった時代)の、
たぶんイタリア半島南部、ギリシャに近いアドリア海。
1903年のライト兄弟による初飛行から20数年、第一次世界大戦を経て、
複葉機から短葉機へと飛行機の性能は向上し、飛行士の腕前次第では
鳥並みに大空を自由に滑空できるようになった、そんな時代に主人公、
飛行艇乗りのポルコ(声:森山周一郎)は生きています。
ひょっとしたらこのころは、飛行機乗りが最も飛行気乗りらしく生きられた
時代だったのかも。

ポルコの職業は、賞金稼ぎ。
この時代のアドリア海は無法地帯で、海賊ならぬ空賊が出没する危険な
ところ。空賊たちは金持ちの所有する飛行艇を襲っては金銀財宝を盗み、
身代金目当てに婦女子を誘拐するなど蛮行を繰り返しています。
そんな連中から盗まれたものを奪い返してやるのがポルコの仕事なんですね。

住処は南海の孤島。外からは見えない入り江の砂浜にテントを張っただけの
わび住まい。でも、男ひとり暮らすにはそれで十分。それにここなら、豚顔を
人にじろじろ見られることもないし、勝手気ままに暮らしていける。
なに人恋しくなったら、愛機でひとっ飛び、近くの島にあるホテル・アドリアーノ
に行けばいい。そこには自分のことを全て理解してくれているマダム・ジーナ
(声:加藤登紀子:宮崎作品には珍しい大人のいい女)がいて話し相手になっ
てくれる。な、俺の人生も捨てたもんじゃないだろ、そうポルコは言いたげです。

でも実のところは、ポルコの人生、それほど安泰ではありません。
いつも痛い目にあっている空賊たちは、アメリカから凄腕の飛行艇乗りカーチス
(声:大塚明夫)を呼び寄せてポルコを海の藻屑にしようと企んでるし、ファシス
ト党が牛耳っているイタリア政府は「豚に国も法律もねえ」が口癖の自由人ポ
ルコを罪をでっち上げてでも捕縛しようと狙っているのですから。

実際、ポルコは飛行中にカーチスに不意をつかれ、撃墜されるはめに。
命に別状のなかったポルコは、飛行艇の修理のため首都にある馴染みの
工場を訪れます。そこで出会うことになるのが、工場主の姪っ子のフィオ(声:
岡本明美:宮崎作品には欠かせない美少女キャラ)、17歳。
この後、フィオは波静かだったポルコの人生に、いい意味で波風を立てる役を
果たすことになります。

お話はそれくらいにして、この映画の最大の謎は、やはり
《なぜポルコは豚顔になってしまったのか》でしょう。
素敵な大人のファンタジーを心理学的に分析するのは野暮かもしれませんが、
あえてそれをするなら、ポルコは戦友たちの死をきっかけに転換性障害(いわ
ゆるヒステリー)に陥ったのかもしれません。
転換性障害は、強いストレスを受けた時にかかりやすい心の病です。
症状は人によって違いますが、突然声が出なくなったり、目が見えなくなったり、
中には手足が動かせなくなる人もいます。
なぜそんな症状が出るかといえば、そうなれば、声を出さなくてすむし、見たく
ないものを見なくてすむからです。症状に逃避してしまうのです。
ポルコの場合は豚顔になってしまった。そうなれば、人は自分を忌避してくれる
し、恋愛沙汰とも関係なくなる。そうすれば結婚式を挙げた翌日に死んだ友にも
顔向けができるじゃないか・・・・、そんなポルコの思いが顔を豚に変えさせてし
まったのではないでしょうか。

でも、心に負った重荷が顔を豚に変えさせたのですから、その重荷が消えれば
顔は元に戻るはず(新興宗教の教祖が車椅子の人を歩けるようにする“奇蹟”
を演出できるのも同じ仕組み)。
さて、それが幸せかどうかは別にして、ポルコは人間に戻れるのでしょうか・・・。
[PR]
by kiyotayoki | 2004-10-22 18:08 | 映画(か行)