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映画の心理プロファイル

『イリュージョニスト』(2010 英・仏)

ジャック・タチが娘のために書いた幻の脚本「FILM TATI No.4」。
結局作られることなくお蔵入りになってしまったらしい(理由は諸説あり)のだけれど、
娘であるソフィー・タチシェフさんがシルヴァン・ショメの作品に父の世界と通じるものを感じ、
遺稿をショメ監督に託すことにしたのだとか。
そうしてついに完成したのが本作『イリュージョニスト』。
一幅の絵画のような映像、
そして、ユーモアとペーソスで淡く彩られた佳作でありました。

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原題:『L'ILLUSIONNISTE』(80分)
監督・脚本・音楽:シルヴァン・ショメ
オリジナル脚本:ジャック・タチ

観ていて、まず思ったのはジャック・タチの遺した脚本がどのように書かれていたのかということ。
タチ作品の特徴は、セリフの極端な少なさにある。
この映画もセリフはほとんどない。登場人物の表情や仕草・動きで表現していく。
ってことは各シーンはほとんど地の文で書かれていたのかしらん。
それとも絵コンテで補足されていた?

それがとっても気になったのだけどそれはそれ、お話の舞台は1950年代のパリです。
戦後10年余り経ったパリはすでに流行の発信地になっていたんだろう。
時代の流れと共に、人々が求めるものも急速に変化していった時代。
新しいもの(ロックバンド)が受け入れられ、古いもの(奇術)は排除されていく。
見事な技を披露する老手品師のタチシェフも、客が入らないからすぐにお払い箱になってしまう。
この老手品師が、顔立ちから立ち居振る舞い、そしてズボンの短さまでジャック・タチそのままで、
見てるこちらも思わず顔がほころんでしまう。

やむなくタチシェフは、つてを頼って海を渡りスコットランドの寒村へ。
辺ぴな田舎町だとタチシェフの芸もまだまだ大ウケだし、バーで下働きとして働いていた少女アリスなどはタチシェフを“魔法使い”だと信じてしまうほど。
穴のあいた靴をはいている少女を哀れに思ったタチシェフは、
店で赤い靴を買い求め、あたかも魔法で出したかのようにしてプレゼントをしてやる。
誤算は、それに感激した娘が仕事を終えて町を去るタチシェフについてきてしまったこと。
戸惑うタチシェフ。
けれど、落ちぶれた自分を尊敬の眼差しで慕うアリスに、いつしか生き別れた娘の面影を重ねてしまい、同行を許してしまう。

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イリュージョニストは、観客をひとときの夢の世界に招待するのが仕事。
そして夢の世界に幕が降りたら、すーっと消えていくのが務め。決して楽屋裏(ネタばらし)は見せない。
そんな人生を生真面目に送ってきたタチシェフが、図らずも楽屋裏に入り込んできた娘に振り回される姿は滑稽というより切なさが募った。

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心に残る味わい深い作品だったけれど、
シルヴァン・ショメの、というよりジャック・タチ色の強い作品だったので、
次回作はショメ監督らしい作品を観てみたいなと思ったのも確かでありました。


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by kiyotayoki | 2011-05-11 09:45 | 映画(あ行)