映画の心理プロファイル

『海洋天堂』(2010 中国)

~平凡にして偉大なるすべての父と母へ~

このキャッチコピー通りに、あのジェット・リーがアクションを封印して、平凡にして偉大なる父に扮する
しみじみと心に染みる作品でした。

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原題:『海洋天堂 OCEAN HEAVEN』(98分)
監督・脚本:シュエ・シャオルー
音楽:久石譲
出演:ジェット・リー
    ウェン・ジャン

初めてタイトルを見た時は「海洋堂」と何か関係あり?
と思ったけど、海洋天堂の天堂って、天上界とか天国って意味なんだね。まさにOCEAN HEAVENだ。
ま、とにかく印象に残るタイトルではあります。

冒頭、海に浮かぶボートの上に中年男とその息子らしい男が並んで腰かけている。
空は晴れ渡り海は穏やか。長閑で美しい風景。
けれど、なぜか2人の足にはしっかりとロープが巻かれ、その先には重りまで。
「そろそろ行こうか」と父が促すと、2人は迷いもなく海の中へ。

わっ、この映画、ラストシーンをいきなりオープニングに持ってきちゃったのか?
そう思ったのも束の間、2人は何事もなかったように自宅へ戻ってくる。
どうやら回想シーンじゃないようだ。だって、2人とも磯の香りをからだ中から漂わせているんだから。

2人して飛び込み自殺をしようとしたのは確かなようだ。だけど、未遂に終わってしまった。
その理由は物語が進むうちにわかってくる。
自閉症の息子・大福(ターフー)は、泳ぎがめちゃ得意なのだ。
また、父親のシンチョンが死を選ぼうとした理由もすぐに判明する。
シンチョンは癌に冒されていて、余命幾ばくもないのだ。
自分が死ぬのに、ひとりでは生きてゆくすべを知らない息子を置いてはいけない・・・。

けれど、息子は生きたいのだ。父親といえど、それを阻む権利はない。
そう悟ったシンチョイは、なんとか息子が生きていける道を探そうとするのだけれど・・・。

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ともすると暗くなりがちなお話を救ってくれているのは、夏の日差しと青島(チンタオ)の海と水族館、
そして、父と息子を演じるジェット・リーとウェン・シャンの笑顔だったかな。
特に、ジェット・リー。以前から笑うとチャーミングだとは思っていたけれど、この映画の彼の笑顔は慈愛に満ちていた。
聞くと彼、この映画にはノーギャラでの出演を自ら望んだのだそうな。
知らなかったけれど、ジェット・リーは2004年12月に起きたスマトラ沖地震を滞在中のモルディブで経験したらしい。
モルディブも津波に襲われたんだろうか。その時、誰もが積極的に被災者を救助する姿に感動。
2007年に、賛同者の1人1人が毎月1ドルを献金する‘壱基金’を創立したのだそうな。
この‘壱基金’は毎年、中国全土のNGO組織から最も優秀な団体を選出し、100万元を贈っているんだとか。
その第1回目に選ばれたのが、この映画のシュエ・シャオルー監督がボランティアをしていた自閉症施設だったというんだな。

実は、シャオルー監督(女性です)、北京電影学院の研究生だった1994年から14年間にわたって
自閉症支援施設でボランティア活動をしていて、本作はその体験から生まれた作品。
彼女は『北京バイオリン』で、チェン・カイコー監督と脚本を共同執筆した経験を持つ人だけど、監督は初めて。
それでもジェット・リーは彼女の脚本を読んで、すぐに無償での出演の話を決めてしまったらしい。

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ジェット・リーの申し出に、シャオルー監督、もしかしたら戸惑ったかもしれない。
だって、ジェット・リーといえばアクションスターだものね。果たして繊細な演技ができるだろうかって。

でも結果は、吉と出た感じ。
ジェット・リーは、十分に監督の期待に応えた演技をしていると思ったな。

また、自閉症の描写がリアルなことはもちろん、自閉症のターフーの演技も、
それを支える周囲の描写も抑揚が効いていて過剰な感じもしなかったし。
それに過度なお涙ちょうだいの演出が抑えられていたのは、個人的には好感が持てた。

無理に演出をしなくても、誰かの親であり、誰かの子であるかぎり、共感ポイントはあふれるほどあるのだから。

ただ、父親が働く水族館に巡業にやって来たサーカス団の女ピエロ、リンリンにターフーが淡い恋心を抱くくだりは、
ちょっと取って付けた感があったかなぁ。
自閉症患者の性の問題を扱おうとしたのだろうけれど、少々きれい事になってしまった感は否めなかった。

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by kiyotayoki | 2011-07-16 15:15 | 映画(か行)