『ハンナ』(2011 米)
前作では、異常な殺人鬼に無残に殺された被害者を演じた彼女だけど、
本作では立場が逆転、無垢な殺人マシーンを演じております。
監督は、シアーシャの映画デビュー作『つぐない』(2007)を撮ったジョー・ライト。
へぇ~、ライト監督、文芸作だけでなく、こんな作品も撮るんだ。
原題:『HANNA』(111分)
監督:ジョー・ライト
原案・脚本:セス・ロクヘッド
音楽:ケミカル・ブラザーズ
出演:シアーシャ・ローナン
エリック・バナ
ケイト・ブランシェット
映画は、極北に近いフィンランドの凍りついた大地からスタート。
シアーシャ扮するハンナは、元CIAの工作員の父と二人っきりで過酷な大自然の中で暮らしている。
ただ漫然と暮らしているわけじゃない。幼い頃から父にサバイバルと様々な戦闘術の鍛錬を受け続け
殺しのテクニックに磨きをかけてきたたハンナ。その能力は今や父を越えるほど。
二人の関係は、親子である前に師弟なんだね。古代ギリシャのスタパルタの親子、現代なら星一徹と飛雄馬みたいな(^^ゞ
ハンナがなぜ、そんな修行を強いられてきたのか。
それには父親がかつて属していたCIAの暗部が関わっておりました。
CIAの暗部、殺しのテクニックを磨いた戦闘員というと、どうしてもボーン・シリーズを思い出してしまうけれど、
映画を観たら、ハンナというキャラクターは、まさに女版ジェイソン・ボーンを意識して作られたんだなと誰もが思うはず。
似たシーンや似た展開も多々あるしね。
フィンランド、モロッコ、スペイン、ドイツとダイナミックに場面展開していくところなんかもそっくりだ。
だけどそれじゃ二番煎じになっちゃう。
それが良くも悪くもそうならなかったのは、ハンナがジェイソン・ボーンと違って16歳の女の子だったから。
殺人マシーンに育てられたといっても、年頃の女の子に変わりはないのだ。
しかも、戦闘能力以外は、複数の外国語とグリム童話しか知らない、ある意味純粋無垢な女の子だ。
(あっ、ボーンも記憶をなくしていたから、ある意味純粋無垢なんだったっけ)
そんなハンナに、透けるような金髪と白い肌、繊細な風貌のシアーシャはしっくり馴染んでいた感じ。
何の娯楽もない山小屋の生活でハンナの唯一の慰めは大判のグリム童話の本だけだった。
たぶん、それが亡き母との唯一のつながりだったんだろう(それと3分間写真で撮られた母の顔写真)。
その本で気づくべきだったのだろうけど、この映画、ハードなアクション映画のようで、
その実ファンタジーの顔も持つ映画でありました。
ちょっと前に「本当は恐ろしいグリム童話」みたいなタイトルの本が話題になったことがあった。
グリム童話は実はかなり残酷な内容が含まれているのだけれど、あまりに刺激的過ぎるので翻訳の段階で
その部分は削られているんだよ~、というアレだ。
この映画は、その残酷な部分、刺激的な部分を逆に強調したファンタジーともいえる映画なのだ。
まあ、たとえて言えば、小びとたちによってひそかに守り育てられていた白雪姫が、
自分の力だけで魔女(義母)に復讐するするお話とでもいうか。
考えてみると、守り育てられていた地、フィンランドはサンタクロースの故郷でもあるものね。
スタートもおとぎ話的ではあったわけだ。
ケイト・ブランシェットの怪演もこの映画のハイライトだ。
過去の非人間的な任務が明るみに出ないようにハンナを抹殺しようとする冷徹なCIA捜査官マリッサを演じているのだけれど、
鼻にイボはついていないけど、まさに魔女然とした役なんだなこれが。
一方、白雪姫を守るほうの“父”を演じたエリック・バナは、うーん、
ジェイソン・ボーンなんかのスピーディな格闘シーンなどを見慣れているせいか、とっても体が重そうに見えた。
そんなエリック・バナのアクションに象徴されるように、
ボーンシリーズのような展開を期待するとちょっと肩すかしをくらうかもしれないな、この映画。
ハードアクション風ファンタジーとして観れば、シアーシャ・ローナンの魅力もあって結構楽しめるんだけどな。