『マッシュ』(1970 米)
原題:『M★A★S★H』(116分)
監督:ロバート・アルトマン
原作:リチャード・フッカー
脚本:リング・ラードナー・Jr
音楽:ジョニー・マンデル
出演:ドナルド・サザーランド
エリオット・グールド
トム・スケリット
ロバート・デュバル
サリー・ケラーマン
「目は心の窓」というように、目にはその人の表向きの顔からは気づくことの
できない“思い”が宿っているもの。目ヂカラのある人は、そんな“思い”まで
私たちに伝えてくれるから強く印象に残っちゃうんでしょうね。
前回は目ヂカラのある女優さんだったので、今回は男優編ってことで・・・。
“目玉”というと、すぐ思い浮かぶのは、メル・ブルックス作品の常連だった
マーティン・フェルドマンですが、あの人のは特殊目なので残念ながら除外する
として、スクリーンでの初対面で“目”が印象に残った男優さんというと、
この映画に出ていたドナルド・サザーランド(キーファー・サザー
ランドの父君)でした。この人は、その後に見た『戦略大作戦』
(1970)でも独特のキャラと目ヂカラで主役のC・イーストウッ
ドを食っていましたから、余計印象に残っちゃった感じ。
〔作品の出来はともかく『針の眼』(1981)という、彼の目ヂカラが
いかんなく発揮された映画もあります〕
しかも、この映画での彼の役名は「ホークアイ」。もちろん本名ではなく“あだ名”ですが、まさに彼にぴったりなニックネーム。
映画の舞台は、朝鮮戦争(1950~1953)時の朝鮮半島。けれど、戦場や戦闘シーンは一切出てきません。出てくるのは、最前線から6キロ離れたところにあるMASH(Mobil Army Surgical Hospital:移動野戦外科病院)。
そこへ2人の医師が補充でやってくるところからお話はスタートします。
その2人の医師というのが、ホークアイ(D・サザーランド)とデューク(T・スケリット)。それに後から加わるトラッパー(E・グールド)の3人がこの映画の主役といったところ。
ただ、監督が群像劇の得意なR・アルトマンなので、他の出演者のキャラもちゃんと立っています。
野戦病院には前線からヘリで次々と虫の息の負傷兵が運び込まれてきます。
だから、仮設の手術室はTVドラマの『ER』も真っ青の殺伐空間と化していますが、3人は与えられた仕事を苦もなくこなしていきます。それは彼らをサポートする看護婦たちも同じ。血を見て卒倒するようなヤワな人間はこの映画にはひとりも出てきません。プロの集団なんですね。
なのにいったん仕事が終わると、彼らはおふざけ大好き人間に早変わり。
女と見れば口説きまくるし、上官風を吹かせるヘボ医官には徹底反抗。
また軍の規律を押しつけようとする堅物婦長(少佐)は、シャワー中の彼女をみんなで見物して笑いモノにしてしまいます(今なら絶対セクハラで訴えられそう)。
この映画、アメリカがベトナム戦争というアリ地獄にズルズルと引っ張り込まれつつあった頃に作られたせいか、戦争に邁進する軍やその権威主義を笑いのめし、医者という職業の矛盾をさらけ出すことで、戦争の愚かさをこれでもかってほど私たちに思い知らさせてくれます。
でも、原作者が言いたかったのは、そのことより「“笑うこと”がいかに大切か」ってことだったのかも。
原作者は実際に朝鮮戦争に従軍した軍医。それだけに極限状態で正気を保ち精神のバランスを失わないためには、“笑い”を忘れないことが一番大切だということ身をもって体験したみたいなんですね。
実際、笑いは「精神的ジョギング」といわれるほど、ストレスの解消になると共に、いい気分にもさせてくれます。ランナーズ・ハイと同じように、脳内にベータ・エンドルフィン(脳内モルヒネ)が増加するらしいんです。
また、心から大笑いすると、免疫力がグンと高まるんだとか。
心の病も含めて病気の8割はストレスが原因になっているといいますし、心身の健康を維持したいなら“笑う”のが一番というわけです。
こういう映画を見て、ちっとも笑えなかった人、批判的なことしか思い浮かばなかった人は気をつけたほうがいいかも。ストレスをため込んで、免疫力が下がっているかもしれませんからね。