映画の心理プロファイル

『チャンス』(1979 米)

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原題:『BEING THERE』(130分)
監督:ハル・アシュビー
原作・脚本:イエジー・コジンスキー
出演:ピーター・セラーズ
    シャーリー・マクレーン
    メルヴィン・ダグラス
    ジャック・ウォーデン

『グリンチ』が子供だけでなく大人も楽しめるファンタジーなら、
この作品は大人のためのファンタジーといえそう。
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主人公のチャンス(P・セラーズ)は、まるでマグリットの絵から
抜け出してきたような紳士然とした中年男性。身につけている
服が、高級ではあるけれどどこかアンティックな感じがするの
は、それらが全て死んだ雇い主からもらったお下がりだから。
ワシントンの街をあてもなく歩くチャンス。彼の職業は、昨日まではある屋敷
の庭師(ガーデナー)でした。物心ついた時にはもうその屋敷に住んでいて、
庭の手入れの手伝いをしていたようです。以来、チャンスは一歩も屋敷から
出ることなく日々庭の手入れをして暮らしてきました。まるで無菌室で純粋
培養された植物のように。
実のころ、チャンスは見た目は中年男ですが、心は子供のまんま。
外の世界を知る唯一の手段であるテレビをこよなく愛す純な男でした。
そんなチャンスに転機が訪れたのが昨日のこと。屋敷の主が死に、長年住ん
だ家から追い出されてしまったのです。
人生の転機はそれでは終わりません。バックしてきた車に挟まれてしまった
チャンスは、その車の持ち主の家に担ぎ込まれてしまいます。
でもその家はただの家ではありませんでした。アメリカの政治をも動かす
財界の大物ベンジャミン・ランド(M・ダグラス)の大邸宅だったのです。
財界の大物ランド氏は余命幾ばくもない身で、邸宅内には医療施設が完備
されており、チャンスは怪我が治るまでこの家の厄介になることに。
ここで、ちょっとした誤解が生じます。
チャンスが「チャンス、ガーデナー(庭師)です」と口ごもって名乗ったのを、
ランド氏の妻イブ(S・マクレーン)が「チャンシー・ガーディナー」と聞き間違え
たのです。
聞き間違えたのは、イブに先入観があったから。
人は相手のことを第一印象で判断しがち(「初頭効果」といいます)。
物腰柔らかで、高級な服を一分の隙もなく着こなしているチャンスを見て、
イブは「この人は名家の出に違いない」と思い込んでしまったのです。
セレブの彼女は、チャンスに自分と同じ匂いを感じ取ったんでしょうね。
そんな先入観ができあがると、人はその色眼鏡で相手を見、すべて判断する
ようになってしまいます(恋をした時も同じですね。思い込みで相手をどんどん
“理想の人”化していっちゃいますから)。
こうして、チャンスはチャンスのままで、けれどランド家の人々はチャンスを
“チャンシー・ガーディナー氏”として接するようになるのです。
欲というものがなく含蓄のある話をする(実は庭木の話をしているだけなの
ですが)“チャンシー”を気に入ったランド氏は、訪ねてきた大統領(J・ウォー
デン)にチャンスを友人として紹介します。
紹介された大統領も“チャンシー”を謎の大物と思い込み、FBIやCIAを総動
員してチャンスの経歴を調べさせます。そして、大統領が記者会見でチャンス
の言葉を引用して喋ったことで、マスコミまでが騒ぎ出すことに。
「大統領に意見が言えるチャンシー・ガードナー氏とは一体何者か?!」
そんな大騒動をよそに、チャンスはチャンスのままで相変わらずの日々を送っ
ていくのですが・・・。
原題の『BEING THERE』は「そこにあるがままに」とでも訳すのでしょうか。

この作品、ベルギーの画家マグリットの一連の作品にインスパイアーされた
ことは確かだと思います。マグリットの描くシュールな絵画は、世の既成観念
にとらわれません。重力からも解放されています。だから、大きな岩も空中に
軽々と浮遊していますし、チャンスと生き写しの紳士もすべての束縛から解放
されているかのように空中にふんわりと浮かんでいます。
そんなイメージを表現したようなシーンがこの映画にも登場しますので、未見
の方は是非その目で確かめてみてください。
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by kiyotayoki | 2004-12-27 11:52 | 映画(た行)