『忍びの者』(1962 日)
(105分)
監督:山本薩夫
原作:村山知義
脚本:高岩 肇
出演:市川雷蔵
伊藤雄之助
藤村志保
岸田今日子
城健三郎
西村 晃
記憶の保管庫があるとして、その中に『日本映画』という引き出しがあると
したら、たぶんその一番奥のほうに入っているのがこの作品です。
小さい頃、親に連れられて見に行ったんだと思います。
見た感想は、ただ「恐い、恐い!」でした。
恐怖のもとになったのは、一にも二にも怪優・伊藤
雄之助のこの形相(この顔で当時まだ42歳!)。
頃は天正年間。織田信長(城健三郎、後の若山冨三郎)
が天下統一を目指していた時代。
忍者の里、伊賀では危機感を募らせていました。
信長が天下統一の邪魔になる忍者衆を根絶やしにしよう
と目論んでいたからです。
この頃、伊賀には百地、藤林という2つの宗家がありましたが、怪優・伊藤
雄之助が演じるのは2大宗家のそれぞれの頭領。じゃ1人2役?
実は、2大宗家の頭領は同一人物だったのです。
1人で2人の頭領を演じ分け、2つの忍者群を統率し、互いに競わせ敵対
させることで緊張感を持続し、戦国の世を生き抜こうとしていたのです。
実際、人は競わせられ、「後れをとるぞ」と焦らされると、より攻撃的な人間に
なることが心理実験でも確かめられています。
戦国の世は、攻撃的でなければ生き抜いていけないのですから、組織を統率
する者としては当然の策を打ったと言えるのかも。
主人公の五右衛門(市川雷蔵)はそんな伊賀の里で育ち、百地砦で一、二
を争う技量を身につけた下忍。
その技量に目をつけた砦の頭領・百地三太夫は、自分の妻(岸田今日子)
に五右衛門を誘惑させ、不倫関係にさせることで弱みを握り、宿敵信長暗殺
を強要します。
非情の人、三太夫にとっては、部下も、そして妻でさえも将棋の駒なのです。
大人になって見返してみても、その非情さ、残酷さは恐ろしいばかり。
忍者の戦いも、特撮や逆回転などはほとんど使わず、あくまでリアル。
そんな作風が刺激的で好評だったとみえ、続編が7作も作られましたが、
1作目でブルってしまった私が、続編を1本も見なかったのは言うまでもありま
せん。
伊藤雄之助さんというと、最晩年(1980没)に『太陽を盗んだ男』(1979:
長谷川和彦監督、沢田研二主演)に出でいたのを覚えています。どこかにビ
デオがあったと思うんだけど、探すのはホネだなあ・・・、見たいけどなあ・・・。