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映画の心理プロファイル

『インポッシブル』(2012 西・米)

出だしから黒いスクリーンには“Based on a true story”という文字が浮かび上がる。
そして聞こえ始める地響きのような音。
これは、2004年に起きたスマトラ島沖地震による津波に巻き込まれたスペイン人一家の実話
を基にした映画。

あの3.11から2年半近く経ったとはいえ、津波の恐怖をここまで克明に描いた映画の公開には
配給サイドでも少なからず戸惑いはあっただろうな。

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原題:『THE IMPOSSIBLE』(114分)
監督:J・A・バヨナ
原作:マリア・ベロン
脚本:セルヒオ・G・サンチェス
音楽:フェルナンド・ベラスケス
出演:ユアン・マクレガー
    ナオミ・ワッツ
    トム・ホランド

オープニングで聞こえた地響きのような音は、実は旅客機の飛行音で、ちょっとホッ。
いきなり地震や津波のシーンから始まったらやはり辛いものね。
スクリーンには長閑な海のリゾート地が映し出される。
舞台となるタイのカオラックはアンダマン海を望むビーチリゾート。日本人に馴染みのあるプーケット島の北に位置していて、特に西ヨーロッパの観光客に人気のスポットらしい。
そこへ、クリスマス休暇を利用してベネット夫妻と3人の息子たちがやってくる。

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5人は、恐怖のカウントダウンが始まっているのも知らず、クリスマスを祝い、バカンスを楽しむ。
そして、運命の26日の朝を迎えるのだけれど、実は観ているこっちも虚を突かれてしまった。
というのも、津波の前には当然“地震の模様”が描かれると思っていたからだ。
ところが津波は、地震という前触れもなく突然襲ってくる。
なぜ?
その疑問は、帰って調べてみるまで未解明のままだった。

なんとカオラックなどアンダマン海に面したリゾートを津波が襲ったのは、
地震発生(マグニチュード9.1)から約2時間半も後だったらしいのだ。
早朝の地震で、しかも発生から随分と時間が経っていたので油断したんだろうか。
それとも津波がどんなものかという予備知識がなかったのか?
それとも、実は僕自身がそうだったけれど、津波を軽く考えていたのか?

とにかく突然の津波に抗うすべもなく家族はのみ込まれてしまう。
その描写は凄まじい。
起きたのが熱帯のビーチだけに、流されていく人々は肌を露わにしている。
そんな無防備な肉体を襲う津波の威力は容赦がなく痛々しいのだ。
瓦礫にむき出しの太腿を深くえぐられながらも、母親として気丈に振る舞おうとする母。
その母と一緒にやっとのことで津波から逃れた長男は、母の痛々しい姿を直視できない。
前半はこの二人がいかにサバイバルしていくか、そして、ややセルフィッシュな長男が「母に守られる立場」から「母を守る立場」になってどう変化していくかが描かれていく。
この映画、長男の成長物語でもあるんだね。
この辺りまでは緊張感が続いて、映画も締まってた。

ただ、この二人と離ればなれになった父親と下の子供達のエピソードになると、ややペースダウンしちゃったかな。
それに、実話なだけに、家族の再会は予想できるし、その再会の仕方はやや凡庸にも思えたな(事実なら仕方ないと自分に言い聞かせておりました)。
とはいえ、心を揺さぶられ、涙が止まらないシーンがいくつもあったのも確か。

サプライズは、なんといってもジェラルディン・チャッブリンかな。
この監督とは前作からのお付き合いのようなのだけど、久しぶりにお顔を拝見したし(もうすぐ69歳)、
その面差しは喜劇王で父親でもあるチャップリンにそっくりだし、
登場シーンで絡むのが5歳くらいの次男なだけに、思わずパパチャップリンの『キッド』とダブって見えてしまったのでした。

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二度と観光客が戻らないのではないかともいわれたカオラックも、様々な努力で一年後には驚くほど復興し、
観光客も以前にも増してやってくるようになったという。
福島をはじめとする東北被災地との違いは、そこには原発がなかったということだろう。
原発と、それを推進してきた政治と行政、見て見ぬふりをしてきた自分たちの責任は
それだけ重いということを、改めて思い知らされた映画でもありました。





   
by kiyotayoki | 2013-07-08 08:51 | 映画(あ行)