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映画の心理プロファイル

『ウェルカム・トゥ・サラエボ』(1997 英)

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原題:『WELCOME TO SARAJEVO』
    (105分)
監督:マイケル・ウィンターボトム
原作:ダミアン・ジョーンズ
    マイケル・ニコルソン
脚本:フランク・コットレル・ボイス
出演:スティーヴン・ディレイン
    エミラ・ヌシェヴィッチ
    ウディ・ハレルソン
    マリサ・トメイ
    ゴラン・ヴィシュニック

この作品、実は数日前にアップした『ミッシング』と同じ夜に見たんですが、どちらも心にかなりズシンとくる映画だったため、間にコメディをはさんだりして気を取り直しての掲載となりました。

『ミッシング』は1973年、動乱のチリが舞台でしたが、こちらは1992年のサラエボ。つい最近の出来事です。当時の日本といえば、バブルが崩壊したとはいえ、ほとんど誰もが安穏とした生活を送っていた時代。けれど、東欧の片隅ボスニア・ヘルツェゴビナでは悲惨な内戦が繰り広げられていたんですね。

サラエボの街を嬉しげに歩く一団。これから結婚式を挙げる花嫁とその家族です。どの顔も笑顔また笑顔。
が、次の瞬間、その笑顔がこわばります。前を歩いていた母親らしき女性が銃弾を受けてその場にくずおれてしまったから。彼女はビルのどこかに潜む狙撃手の標的にされたのです。
事の起こりは、ソ連を中心とした東側諸国の崩壊と民族主義の台頭。
それは旧ユーゴにも飛び火し、スベロニア、クロアチアが独立したのに続き、このボスニアでも独立の機運が高まりました。
ところがここで悲劇が。ボスニアは複数の民族で構成された地。クロアチア人とムスリム人は独立に賛成していましたが、セルビア人は反対。そこに隣国セルビア共和国が出ばってきます。ボスニア内のセルビア人を支援するという名目でセルビア軍は国境を越え、首都サラエボを包囲してしまうのです。そのため、つい昨日まで仲のいい隣人だった者同士が民族が違うというだけで敵対することに・・・。

この映画の主人公は、原作者の1人でもあるイギリス人ジャーナリストのマイケル・ニコルソン(S・ディレイン)。冒頭の花嫁の母の悲劇も彼の実体験に基づいたエピソードなのでしょう。
サラエボの市民たちの間では「危険な通りを渡る時は3人目を避けろ」と言われていたそうです。というのも、狙撃手は1人目でターゲットを見つけ、2人目で狙いをつけ、3人目で撃つと噂されていたから。
当時、各国の報道陣はこぞってサラエボに入り、熾烈なスクープ合戦を繰り広げていました。
彼らにしてみれば死体は被写体のひとつ。センセーショナルな事件ほどニュースのトップを飾れるというので、各社は競い合うように悲惨な現場にかけつけます。そんな彼らですから映像を撮るのに忙しくて、傷つき救いを求める市民の声に応じる気配はありません。
そんな報道姿勢に疑問を抱いたマイケルは、地味で他が目を向けない戦争孤児への取材を始めます。そして、そこで1人の少女エミラと運命の出会いをすることになるのですが・・・。

ドキュメンタリーフィルム交えつつ戦争の厳しい現実を努めて感情を抑えて描いたのは『ひかりのまち』や『CODE46』で知られる英国人監督マイケル・ウィンターボトム。
いかにも米国人らしいジャーナリスト・フリンを演じるのは、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のウディ・ハレルソン。孤児たちを国外に脱出させるボランティア役でマリサ・トメイも出ています。
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また、TVドラマ『ER』でクロアチア人医師コバッチュを演じるゴラン・ヴィシュニックが主人公を助けるサラエボ市民のひとりとして印象的な演技を披露しています。

「人間の二大欲求はエロス(生への欲求)とタナトス(死・破壊への欲求)である」と言ったのはフロイトですが、生命を産み育む性である女性はエロス欲求が強く、生命を産み出すことに直接関われない男性はどうもタナトス欲求が強いようです。なにしろ自殺者数は、男は女の3倍にも
なるそうですから。
そういう意味で、戦争の責任は自分も他者も破壊したがる男性にあるといっても過言ではないようです(T_T)。
by kiyotayoki | 2005-05-29 15:49 | 映画(あ行)