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映画の心理プロファイル

『ミリオンダラー・ベイビー』(2004 米)

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原題:『MILLION DOLLAR BABY』
(133分)
監督・音楽:クリント・イーストウッド
原作:F・X・トゥール
脚本:ポール・ハギス
出演:クリント・イーストウッド
    ヒラリー・スワンク
    モーガン・フリーマン

いつでも観ることができたのに、悲劇の予感があってついつい観そびれ、年が明けてしまった昨日やっと鑑賞。

ギターのつま弾きで始まり、儚げなピアノの調べで終わる物語です。
モーガン・フリーマンの語りで始まり、つぶやきのような語りで終わる物語でもあります。
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フリーマンが演じるのは、かつての名トレーナーで今も名カットマン(出血止め)としての腕を保持しているフランキー・ダン(C・イーストウッド)の相棒スクラップ。
スクラップというのは愛称なんでしょうね。彼は110の戦歴を持つ元ボクサー。37歳の時、フランキーに出会い、彼の止めるのも聞かずに最後の試合に出て片目を失明。今は、フランキー経営のボクシングジムで住み込みの雑用係をしている身ですが、2人の関係は腐れ縁という言葉では語り尽くせないほどの近しさを感じます。そう、まるで前世からの友のよう(もしかして『許されざる者』の頃からの縁?)。

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この道50年のフランキーは、仕事一筋が祟って唯一の身内である娘のケイティからも絶縁されている孤独な男。そんな男の生きるよすがは教会への日参とアイルランドの詩人イエーツの詩集をゲール語で読むこと(きっと先祖がアイルランド移民なんでしょうね)。

そんな2人のジムに押しかけ女房のように入り込んできたのがマギー(H・スワンク)でした。マギーも孤独という点では2人に負けていません。ミズーリに家族はいるものの、貧しさが骨身に染み付いている母親らはマギーに仕送りしか期待していない。そんな家族のためにマギーは13歳からウェイトレスをしてコマ鼠のように働いてきた。
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そんな彼女の生きるよすががボクシング。
「トレーナーになって」という彼女の申し出を最初は頑なに断っていたフランキーも、彼女の熱意と、それにほだされたスクラップの応援に負けて彼女を育て始めます。
最初はまるで娘に罪滅ぼしでもするように。そして後には本当の娘に接するように・・・。

残念ながら悲劇の予感は当たってしまいましたが、フランキーにとってマギーはまさに「百万ドル」にも代え難いベイビー(娘)になったし、マギーにとってもフランキーは家族以上の存在になった。やっと2人は孤独から解放された。
プロボクサーになったマギーにフランキーが送ったゲール語の言葉「モ・クシュラ」。その意味をのちに知った時の彼女の目の輝きがそれを物語っていました。
そのとき彼女は幸せに包まれたことでしょう。だから残酷な宿命を前にしてもひるむことはなかったはず。ひるんだのは、ひるむまいと自分を叱咤したフランキーのほうだったでしょう。

フランキーが愛読していた詩集の著者イエーツは、深い心の中心には一体何があるのだろうという問いを一生かけて探し求めた人だといいます。フロイトの言葉を借りれば、無意識の世界の旅人だったのでしょうね。
そんなイエーツは、誰の心の中にもイニスフリーという夢の島があるとも言いました。
ひょっとしたらフランキーとマギーは今ごろイニスフリーにある島一番のレモンパイを出す店で楽しそうに思い出話に花を咲かせているのかも。イーストウッド監督だってそう思いたいのではないでしょうか。

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by kiyotayoki | 2006-01-03 23:22 | 映画(ま行)