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映画の心理プロファイル

『シンデレラマン』(2005 米)

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原題:『CINDERELLA MAN』(144分)
監督:ロン・ハワード
脚本:アキヴァ・ゴールズマン
    クリフ・ホリングワース
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ラッセル・クロウ
    レニー・ゼルウィガー
    ポール・ジアマッティ
    クレイグ・ビアーコ

若い頃は誰にでも夢があって、平凡な人生は送りたくないと思ってる。
ただ現実は厳しくて、夢は夢のままで終わってしまうことが多いもの。
かくして人は、平凡な生活の中に小さな夢や希望を見出すようになっていく。
地道な仕事につき、それ相応の伴侶を見つけ、子どもを産み育て・・・。
でも、そんな平凡な生活さえできなくなったら、奪われたら、いったい人は何に夢や希望を見出せばいいんだろ。

この作品は、そんな境遇に追い込まれた実在のボクサーの不屈の復活劇。
同じ境遇に身をおく身も心も荒んだ人々はそんな男に夢や希望を見出し、彼を「シンデレラマン」と呼ぶようになったのでした。
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男の名はジム・ブラドック。
物語が始まる1928年(調べたらジムは当時21歳)、将来を嘱望されていたジムは向かうところ敵なし。翌年にはライトヘビー級の世界王者のベルトに挑戦します。妻や子にも恵まれ順風満帆な日々。
が、そこが人生の頂点でした。判定負けでベルト奪取に失敗したジムは、人生の坂道を一気に転がり落ちていきます。拳を痛めて満足な試合ができなくなった上に、世界を襲った大恐慌で蓄財を失ったジムは家族と共に一戸建てからボロアパートの地下室に引っ越しを余儀なくされてしまうのです。

それにしても、大恐慌前後を舞台にした映画って多いですね。しかも秀作が多い。前回ご紹介した『紅の豚』もそうだし、『ペーパームーン』(1973)や『アラバマ物語』(1962)、それから『シービスケット』(2003)もそう。
夢のない時代だからこそ、微かな光明を求めてもがく人がいる。自己を自分でも驚くほど輝かせる人がいる。だから、なのかな。

ジム・ブラドックもそのひとり。頼みの綱のライセンスを剥奪されても、日雇いの仕事にさえあぶれてもジムの心は折れません。いや、折るわけにはいかなかった。なぜ?彼には守るべき家族が、妻と幼い3人の子どもたちがいたから。
なあんて、文字で書くと簡単だけど、実際は並大抵の苦労じゃなかったんだろうな。今も“格差社会”という言葉をよく耳にするし、それを実感することもあるけれど、この時代の格差は桁違いですものね。事実、ジムは家族さえ守れない現実に何度も打ちのめされます。
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止められた電気を回復させるため、家族を取り戻すためにプライドを捨て物乞いまでしたジム。その人生に再び光がさし始めたのは1934年。調べたら29歳の時です。“調べたら”っていちいち書くのは、見ている時は30代後半かと思っていたから(^^;。
元マネージャーのジョー(P・ジアマッティ)が一夜限りの復帰試合の話を持ち込んできたのです。

相手は世界ヘビー級2位の伸び盛りの若手選手。怪我をした選手の代役でファイトマネーはたった250ドル。散々打ちのめされリングに這いつくばるのがオチなのに、それでも引き受けたのはもちろん家族のため。そして、憧れのマディソンスクエアガーデンで引退試合ができるという思いからでした(映像を見て初めて知りましたが、当時マンハッタンには市電が走ってたんですね♪)。

興奮したアナウンサーが「雪崩と闘うブラドック!」と形容した試合。
けれど結果は、ジム・ブラドックの3ラウンドKO勝ち。
奇蹟?いや、ボクシングにしろ何にしろ一発勝負の格闘技はハングリーなほうが勝つといいますから必然だったのかも。
この勝利が不屈の復活劇の序章となり、最終章までリング上の闘いが熱く、壮絶に繰り広げられていくことになります。
ボクシング映画といえば『ロッキー』ですが、試合のシーンは案外短いんですよね。「あれじゃ消化不良だよ」とお思いの方は是非。家族愛だけでなくリング上の闘いもたっぷり堪能できる作品です。
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《印象に残った台詞》
     「リングでの苦しみなら耐えられる
                 (再起に際して妻のメイを説得した言葉)

《心理マメ知識》
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この映画で儲け役、マネージャーのジョー・グールドを演じているポール・ジアマッティ。
彼がジムのボクサー・ライセンスをコミッショナーから取り戻すために使った心理テクニックは『転用』と呼ばれるもの。
「あんな年をとったボクサーはもうだめだ」
年をとったボクサーだからこそいいんです!」
人はいったん拒絶すると安心するためか、さらに言い返されると2度目の拒絶がしにくくなるんですね。相手の拒絶を受けて「だからこそ」と返すと、交渉事が案外うまくいく、かも♪
by kiyotayoki | 2006-04-24 06:51 | 映画(さ行)