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映画の心理プロファイル

『パンズ・ラビリンス』(2006 墨、西、米)

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原題:『EL LABERINTO DEL FAUNO』(119’)
監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
音楽:ハビエル・ナバレテ
出演:イバナ・バケロ
    セルジ・ロペス
    マリベル・ベルドゥ
    ダグ・ジョーンズ
    アリアドナ・ヒル

このポスターにはすっかりダマされたなぁ。
「スペイン内戦を背景に描くダーク・ファンタジー」ってことぐらいは事前の知識として頭に入っていたんだけど、ポスターがきらきら美しいだけに、ダークとはいえ子供も楽しめる内容にはなってるんだろうなと勝手に想像していたのです。
ところが、なんのなんの。
この映画、子供に見せるにはかなり勇気が必要です(理由は後述)。
鑑賞後の衝撃度・満足度では、今年ナンバーワンかな。

この映画の存在を知ったのは、今年春のアカデミー賞授賞式(3部門受賞)。
ほんのさわりではあったけれど、その映像美には心を奪われたもの。
だけど月日が経ってすっかり忘れてしまい、公開中だということを知ったのは、ボー・BJ・ジングルズさんのおかげでした(感謝デス)。
ボーさんは、この映画をマイカルシネマズ板橋でご覧になったとのこと。僕もそうしようと思っていたんだけど、金曜日、たまたま銀座へ行く用ができたので、シネカノン有楽町での鑑賞となりました。

オープニングシーンから、いきなり観客は不安の渦の中に突き落とされます。
そのワンシーンで、主人公の行き着く先が漠然とですが予測できるからです。
う~ん、デル・トロ監督、罪作りな人だなぁ。

映画の舞台は、1944年のスペイン。内戦終結後もフランコ政権の圧政に反発する人々がゲリラ闘争を繰り広げる山間の地。そんな不穏な地へ、少女オフェリアは、臨月の母カルメンと共にやって来ます。この地でゲリラの鎮圧にあたっている政府軍の将ビダル大尉と母が再婚したためでした。
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このビダル大尉、オスの中のオスって感じのヤツ。
脳内にはいつもテストステロンが充満してるんじゃないかと思うほどオスっぽい男。
テストステロンは性欲と攻撃のホルモン。これが脳内にあふれている男ほどオスらしくなり、オスらしい行動をとる。
どんな行動かといえば、
・女性をセックスや力で支配したがる
・自分の価値を証明するために家庭よりも仕事を優先する
・愛する人には物質的な満足さえ与えればよしと考える
・自分と対立する人を社会的に破滅させようとし、時には生命まで奪おうとする・・・etc
このタイプの男性は、強烈なリーダーシップを発揮する一方で、目的のためなら人を傷つけても心はあまり痛まない。ビダル大尉がまさにそうで、ゲリラ鎮圧のためなら手段を選ばないし、少しでも怪しい人間には顔が変形するほどの暴力をふるい、終いには射殺してしまう。その暴力描写は並の戦争映画よりリアルで凄まじい(見ていて何度顔をしかめたことか^^;)。
ビダルはその強烈なオスの血脈(遺伝子)を後世につなぐためにオフェリアの母を選び孕ませた。その上、ビダルは当然のように息子が生まれてくると信じて疑わない。

優しかった亡父の面影を胸に抱いているオフェリアには、そんなビダルを新しい父親として受け入れることはできません。でも、ビダルの庇護を受けなければ母親も自分も生きてはいけない。だからオフェリアとしてはファンタジーの世界へ逃げ込まざるを得なかったのでしょう。初めて訪れた山間の地は神秘的で、少女が想像をふくらませるには十分な佇まいをしていましたし。
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オフェリアは、妖精(なんとトビナナフシ!)に導かれて、朽ちた遺跡(迷宮)の奥でパン(牧羊神)と出会います。そして、そのパンから自分が地底にある魔法の国のプリンセスの生まれ変わりであること、また、満月の夜までに3つの試練を乗り越えれば、魔法の国に帰ることが出来ると告げられます。
3つの試練さえクリアできれば、自分が王家の血脈であることを証明でき、幸せを手にできる。オフェリアはそれを信じて試練に立ち向かう決意を固めます。

こうして、オスの血脈をつなごうとする者と王女の血脈をつなごうとする者の対立の構図が出来上がるんですが、なにしろ現実が厳しすぎるんです。
普通のファンタジーであれば、不思議の世界へ行ったら、しばらくは戻ってこないものだけど、現実(政府軍とゲリラの戦い&母親の病)があまりに過酷なものだから、オフェリアはおちおちと空想に浸ってはいられないのです。すぐ現実に引き戻されちゃう。現実と空想が交錯するようにもなってくる。見てるこちら側もハラハラのしどおしでした。しかも、オープニングで「ある予感」が見ているほうには植え付けられていますから、余計にね(^^;
・・・とと、これ以上書くと、ネタバレしそうなので、やめておきましょうか。
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こちら(←)は、英語圏でのポスター。
こっちはかなりダークなイメージが強調されていますね。
日本のポスターは色調が明るいだけに、そのイメージで本編を見た人にはショックがダブルできちゃいそう。正当派のファンタジーファンを取り込もうという制作者の意図が感じられるけど、ある意味罪作りなポスターではありますね。






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この映画、さすがダークファンタジーだけあって、奇怪なクリーチャーが登場します。
上が「ペイルマン」で、下が「パン」。
驚いたのは、どちらもダグ・ジョーンズという俳優さんが演じてるんですね。
しかも、このダグさん、同じギレルモ・デル・トロ監督作品『ヘルボーイ』でもとっても印象的なクリーチャーを演じてる。
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それがこちら(→)
水棲人間エイブ・サピエン。
ダクさんは、ひょろっとしていて、手足の長い人。
クリーチャーメイクをするのに最適なボディをしてるんですね。
だからか、引っ張りだこみたいで、
『ファンタスティック4』の新作では、シルバー・サーファーまで演じてる。
いやあ、新たなクリーチャー俳優の誕生だな、これは。

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by kiyotayoki | 2007-10-14 17:14 | 映画(は行)