映画の心理プロファイル

やわらかい手(2007 ベルギー・ルクセンブルク・イギリス・ドイツ・フランス)

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原題:『IRINA PALM』(103分)
監督:サム・ガルバルスキ
原案・脚本:フィリップ・ブラスバン
音楽:ギンズ
出演:マリアンヌ・フェイスフル
    ミキ・マノイロヴィッチ
    ケヴィン・ビショップ
    シヴォーン・ヒューレット


世界同時株安、大量解雇、派遣切り・・・と、100年に一度といわれる大不況できりもみ状態の日本だけれど、英国の特に労働者階級を描いた映画を観ると、失礼かもしれないけど、ちょっとだけホッとする。
『フルモンティ』にしろ『リトルダンサー』にしろ、去年秋に観たケン・ローチ監督の『この自由な世界で』にしろ、どの作品もどっぷり不況に漬かった世界とそこで懸命に暮らす人々の姿が描かれてる。さすが斜陽先進国、不況が板に付いてるというか・・・(^^;。

この作品も、クリスマスシーズンとは思えないほどロンドンの風景は空も街も陰鬱そのもの。
職探しのために寒空の中、厚着をし首を縮めてとぼとぼ歩く主人公マギーの姿も物悲しさが漂っている。

あ、今の今まで気づかなかったけど、これ、クリスマスの小さな奇跡の物語だったのかな?

還暦をとっくに過ぎたマギーが、なぜ職探しをしているのかといえば、孫の治療費を捻出するため。ひとり息子の孫オリーは難病に罹っており、命を長らえさせるためには海外での高額な治療を受けさせる必要がある。
けれど、これまでの治療費で家まで手放していて、銀行で渡航費を借りようにも担保も収入もないので、サンタの帽子をかぶった銀行員には門前払いを食らう始末。
街のショボいクリスマスイルミネーション同様、現実はキビシ~っのです。

途方に暮れたマギーが見つけたのは、表向きは「接客」というかなり特殊な風俗業。
面接を受けたマギーは、オーナーであるミキ(男です^^)の説明に唖然としてしまいます。
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だって、その接客で彼女が客と接するのは手だけなんですから。
壁を隔てているので、顔を合わせることは全くない。
ならば楽?いやそれがその・・・お客が穴から彼女の手に差し出すのは、おのが男性自身、なのです。
手の動かし方さえ熟練すれば、誰でもできる仕事。年齢関係なし。だからこそマギーは面接を受けられたのでした。
そういえば、若き日のクリント・イーストウッドの主演作『マンハッタン無宿』にも、お婆さんたちが大勢でキスマークを封筒に入れて郵送するバイトをしてるシーンがあった。それをもらって大喜びしてる客が五万といたわけだ。
知恵と才覚さえあれば、年寄りにだってできる仕事はいくらでも作り出せるんだね(^^。

思い悩んだものの、結局マギーは可愛い孫のためと覚悟を決め、この怪しい世界に足を踏み入れることになる。
ひとつ幸運だったのは、マギーの手に常人にはない特徴があったこと。タイトルにもなっているけれど、非常に“やわらかい手”だったのです。その手で触られ、愛撫されると、えも言われぬ快感が得られるようなのだ。ってどんな感触なのか、こればっかりは体験してみないとわからない(^~^;
それが評判となり、マギーの受け持つ個室には毎日長蛇の列ができるようになる。
原題の『イリーナ・パーム』は、そんな彼女にオーナーのミキがつけた源氏名なのです。

題材が題材だけにR-15指定になっているようだけど、案外エロスとは無縁、卑猥さは皆無だった。
それより社会の底辺で懸命に生きる人々の健気さ、逞しさ、つらさ、哀しみがじんわり心を打つ作品に仕上がっていた。

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卑猥さを減じていた理由のひとつは、風俗店のオーナーを演じていたユーゴスラビア出身の男優ミキ・マノイロヴィッチの存在も大きかったと思う。
人間の欲望を金に換えている男でありながら、ギラついていないのだ。その目は、諦観からか哀しげでも優しげでもある。
当初はマギーを冷ややかに見ていたものの、次第に心を開き、心を寄せるようにもなる男をマノイロヴッチが滋味深く演じてくれている。地味ながら印象に残る役者さんだ。

小さな奇跡が生まれる映画ではあるけれど、ヨーロッパ映画らしく人生の皮肉を描くことも忘れていない。
マギーは男を虜にする“柔らかい手”の持ち主でありながら、死別した夫には浮気をされていたのです。
しかも親友と呼べそうな彼女の友人と。
きっと、生活すべてが受け身で、その“やわらかな手”の恩恵を夫も、そして彼女も受けていなかったのが原因なのだろうな。

映画を観て思ったのは、人間って生き甲斐さえ持てれば、どんな過酷な状況だって生き抜いていけるんだなってこと。
今の社会が生きづらいのは、なかなか生き甲斐が持てないからなんだろう。
派遣社員の哀しみもそこにある。正規雇用の社員には少なくとも“愛社”という生き甲斐がある。
それさえ持てず、簡単に首を切られてしまう派遣社員の「もう派遣はイヤだ」という叫びはもっともなことだと思える。

さて、samurai-kyousukeさんも書いていらっしゃったけど、
主人公マギーを演じてたマリアンヌ・フェイスフルという女優さんは、
僕みたいに1960年代後半に思春期を迎えた人間にとっては衝撃的な印象を残した方として知られております。
それは現在62歳の彼女が21歳のときに出演した映画『あの胸にもういちど』(1968)によるところが大。
この映画で彼女が演じるのは、“全裸”に黒革ライダースーツだけを身にまとい、
夫がいる身でありながら愛人(アラン・ドロン)の胸に一刻も早く飛び込みたくて、金髪をなびかせハーレイダヴィッドソンを疾走させる女の役。
この映画、当時やっとすね毛が濃くなってきた頃だった僕には敷居が高すぎて、TVで予告編を見ただけだったんですが、それだけでドッキンドキドキしちゃった作品デシタ(^^;。
その予告編がこちら(↓)

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by kiyotayoki | 2009-01-17 12:47 | 映画(や行)