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映画の心理プロファイル

『レスラー』(2008 米)

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原題:『THE WRESTLER』(109分)
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:ロバート・シーゲル
音楽:フリント・マンセル
出演:ミッキー・ローク
    マリサ・トメイ
    エヴァン・レイチェル・ウッド

映画を観ていて、
「あなたにとって、80年代ってどんな10年だった?」
と、スクリーンの中から問いかけられたような気がした。

80年代か。思えば自分的には20代から30代(ひゃあ、そんな時代があったのね^^;)。恋もしたし、あ、結婚もしたっけ。
仕事面でも荒削りだけど勢いだけはあって、考えてみれば人生で一番華のあった10年だったのかも。
時代的も、いきなりジョン・レノン射殺という衝撃的なニュースから始まったけれど、バブルあり、共産圏の崩壊あり、何かとアグレッシブな10年だった。
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この映画の主人公、ランディ・“ザ・ラム”・ロビンソンも、そんな80年代に頂点を迎えたプロレスラー。“ザ・ラム”というのは得意技の空中殺法だ。
だけどピークから20年。歳月は残酷だ。長年の無理がたたって、今やもう心身共にボロボロの状態。それでもランディは現役にしがみついている。
思えば、ランディを演じているミッキー・ロークも、80年代が俳優としての黄金期だったんだね。
それだけに観る側はランディにロークの人生(ついでに自分の人生も)をどうしても重ね合わせて見てしまうし、作り手側もしっかりそれを狙って作っている。

驚いたのは、ローク(ランディ)の肉体。
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脱いだら意外なほど筋肉質、しかもただの筋肉質じゃない。プロレスラー的な分厚い肉のつき方をしてるのでびっくり!この撮影のために相当鍛えたんだろうけど、映画の中のランディ同様、ステロイド系の薬のご厄介にもなったんじゃないだろうか。
米国のプロスポーツ界も最近は薬物の取り締まりがかなり厳しくなったようだけど、プロレス界はまだまだ薬物天国。
華麗な技、過激な肉弾戦をショーアップして見せるのがプロレスだけど、一般人が目を見張るような豪華な肉体を披露するのもショーアップの一環なんだね。だから控え室では当たり前のように危ない薬が売り買いされてる(中にはマイケルが欲しがってた薬デメロールなんかも^^;)。
この映画は、そんなプロレス界の舞台裏が覗ける作品でもある。

その一方で、プロレスの痛々しい影の部分もしっかり描き込んである。プロレスは相当に危険な商売なのに、それに対する保障や保険の類がほとんどないのだ。それは一時期花形スターだったランディだって同じこと。
肉体がどんなに悲鳴をあげていても、生活のためにはプロレスの興行出場はやめられない。それだけじゃ家賃も払えないからスーパーでも月~金で働く。それでもトレーラー生活がやっとなのです。
いや体が動くランディなんかはまだいいほうで、試合で障害を負い動けなくなってしまったレスラーたちに残された道は生活保護を受けて細々と生きるか、ホームレスのあげくに野垂れ死にって選択肢ぐらいしか残っていないようなのだ。

興行は巡業でもあるから一カ所に留まっていられない。だから家族は犠牲になる。
ランディもとっくに離婚していたし、ひとり娘にだってここ十年ぐらい電話さえしていない。
観ている時は気づかなかったけれど、成長した娘を演じるのは『アクロス・ザ・ユニバース』(2007)で印象的な演技と歌声を披露してくれたエヴァン・レイチェル・ウッドだったんだな。女性は変わるなぁ。

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孤独なランディの唯一の慰めは、場末のパブに出演しているストリッパーのキャシディと言葉を交わすこと。このキャシディとの関係性が微妙で、ある意味この映画の白眉ともいえるシークエンスになっていた。
演じているのは、マリサ・トメイ。
この女優さんを初めて観たのは、若き日のクリスチャン・スレイターが主演した『忘れられない人』(1993)だったかな。
“明るさを失わない日陰の女”という役が多いような気がするけど、この映画でもそんな役柄そのままに、いや今まで以上に日陰で生きていくための処世術が身についたヌードダンサーの女性をまさに体当たりで演じてる。
1964年12月生まれだというから、今年もう45歳になっちゃうんだな、彼女。


「それぞれの人生には独自の“生きる意味”がある」
そう言ったのは精神分析医のV・フランクルだけれど、
自分の生きる意味を求めてもがきあがくランディやキャシディの姿にしびれまくった映画でありました。

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by kiyotayoki | 2009-07-13 12:03 | 映画(ら行)