映画の心理プロファイル

『告発のとき』(2007 米)

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原題:『IN THE VALLEY OF ELAH』(121分)
監督・脚本:ポール・ハギス
原案:マーク・ボール、ポール・ハギス
音楽:マーク・アイシャム
出演:トミー・リー・ジョーンズ
    シャーリーズ・セロン
    スーザン・サランドン

原題は「エラの谷で」。
これは劇中、主人公のトミー・リー・ジョーンズがシャーリーズ・セロンの息子に聞かせるお話の中に出てくる地名のこと。

その場所で、後に古代イスラエルの二代目の王となる少年ダビデが、
巨人戦士ゴリアテを石つぶてだけで倒したという旧約聖書の逸話。
欧米人にとってはなじみの深いものなんだろうな。

だけど、わたくしめを含め一般の日本人にはなじみは薄~い(^^;。
だから『告発のとき』なんて、無難だけどあまり印象に残らないタイトルになっちゃったんだろう。
何を告発しているかといえば、それは今もまだ戦後処理が終わっていないないイラク戦争だ。

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トミー・リー・ジョーンズが演じるのは元陸軍軍曹の初老の男ハンク。
今は、妻のジョアン(S・サランドン)と悠々自適の生活を送っているけれど、
現役時代は軍警察に所属して軍内の難事件をいくつも解決した優秀な軍警察官だったようだ。
父を尊敬する2人の息子も当然のように軍に入隊。
けれど、兄はすでに戦死しており、弟のマイクはイラク戦争から帰ってきた途端、行方不明になり、そして無惨な惨殺死体となって発見される。
その事件を捜査することになるのが地元警察のバツイチ子持ちの刑事エミリー(S・セロン)。

このドラマ、ただの犯人探しのサスペンスで終わっていないところは、さすがポール・ハギス。
ポール・ハギスといえば、すぐに思い出すのは初監督作の『クラッシュ』(2004)
『クラッシュ』ではまるで無法地帯のようなロスが舞台だったけれど、
今度は戦争でまさに無法地帯そのものになったイラクにスポットライトが当てられる。
そこでは人の心はもはや正常を保てないようで・・・。
映画は息子の死の真相を追い、犯人を探し求める父親を追いながら、戦争の暗部を、そして人間の心の暗部をえぐりだしていく。
その暗澹たる現実に突き当たるたびにトミー・リー・ジョーンズの顔は陰影が濃くなっていくのだけれど・・・。

最近は、顔のシワで演技できる人をあまり見かけなくなったけれど、
トミー・リー・ジョーンズはその数少ない俳優さんのひとりじゃないだろうか。
シャーリーズ・セロンは、この映画でも“男社会でタフに生きる女”をらしく演じている。
そんな2人に比べると、スーザン・サランドンは出番が少ない分、役柄と同じく控えめでありました。

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最初にご紹介したダビデvsゴリアテのお話は、「小よく大を制す」の典型例。
小さくても、力が劣っていても、勇気と知恵と機転がきけばどんな難敵でも倒すことができるという喩えとして、あちらではよく語られるお話らしい。
実はこのお話、断片的にしか知らなかったので今更ながら調べてみた。
ゴリアテというのは、旧約聖書のサムエル記に登場するペリシテ人の巨人兵士のこと。
身長は3m近くある巨人で、分厚い鎧と鉄の槍で武装している。
その威容を目の当たりにしただけで、イスラエル兵達は腰を抜かして動けない。
そんな時、「僕があいつをやっつける!」と進み出たのが羊飼いの少年ダビデ。
どうやってやっつけたかというと、左の絵のような手製の投石器を使ったみたい。
この飛び道具で放たれた石が、、ゴリアテの完璧な鎧で唯一無防備だった眉間に当たったものだから、さすがのゴリアテも昏倒。簡単にダビデに首をはねられてしまったのだそうな。

重厚長大の戦艦にこだわって結局は軽武装の戦闘機に敗れ去った戦前の日本軍は、このたとえ話を知らなかったのかな。
このお話を男の子にしたハンクは、このことをよく知っていたし、地上部隊を投入する前に空軍のピンポイント攻撃でイラクの武力をあらかた無力にしてしまう米軍の戦略に自信を持っていた。
だけど、戦争は地上部隊を投入してからが本番(地獄)だということをハンクは知らなかった。いや、忘れていたんだろうね。
だから、イラクから電話してきた息子の「助けて」シグナルを、怪我の心配はしても聞き逃してしまった。

それを悔やむハンクが最後にとった行動とは・・・・

単なる愛国心だけでは解決しない泥沼に直面した米国民に問いかけるこの映画が公開された後、米国では大統領選が行われ、民主党政権が誕生した。
だけど、考えてみればベトナム戦争終結後も似たような政権移譲が行われたんだよね。
歴史はいつまでこうやって繰り返されていくんだろ。
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by kiyotayoki | 2009-07-25 12:00 | 映画(か行)