映画の心理プロファイル

『群衆』(1941 米)

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原題:『MEET JOHN DOE』(124分)
監督:フランク・キャプラ
原作:リチャード・コネル、ロバート・プレスネル
脚本:ロバート・リスキン
音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:ゲイリー・クーパー
    バーバラ・スタインウィック
    ウォルター・ブレナン
    エドワード・アーノルド

戦前のフランク・キャプラの作品というと、『或る夜の出来事』(1934)、『スミス都へ行く』(1939)と、名作が多いけれど、この作品は全く知らなかった(^^;。
キャプラ監督、『スミス~』の後に、こんな映画を撮っていたんだなぁ。
しかも、これ、“飛び降り自殺を止めるシーン”まであるじゃない♪♪

前にも書いたことですが、ある時期、映画やTVの中に出てくる“飛び降り自殺を止めるシーン”の蒐集を趣味にしていたことがありまして。
というのも、自殺を思い止まらせるためには相手を説得しなきゃいけないんだけど、
そこには様々な心理テクニックが駆使されているんですね。これが面白かった。
しかもよく観察してみると、どれもが説得する人物のキャラクターならではのやり方で止めているのです。

集め始めてわかったことだけど、“飛び降り自殺を止めるシーン”は、必ずといっていいくらいお話の冒頭部に設けられています。
というのも、主人公がどんな止め方をするかで、その人となりが観客に伝わるから。
「こいつは気が小さいから奥手でさ。いまだに女性経験がないんだぜ」なんて
キャラクターの説明をセリフでやっちゃう脚本って稚拙な感じがしますよね。
その点こちらは、どういう止め方をするかで自然にその人となりが見る側に伝わっちゃう。
説明なしで主人公の癖や性格だけでなく信条や価値観まで伝えることができるんですね。
キャラクター設定は、できることなら少しでも早く観客に伝えたい。だから冒頭部にこのシーンがあるというわけです。

そんな効果があるせいか、“飛び降り自殺を止めるシーン”って思いの他たくさんあるんですよ。
たとえば、『ダーティハリー』『リーサルウェポン』『クロコダイル・ダンディ2』『靴をなくした天使』『タイタニック』・・・etc.
そのどれもが、“らしい”止め方をしている。しかも、それぞれが面白い心理テクニックを使って。
ちなみに、下のYouTubeの映像は、『リーサル・ウェポン』の“飛び降り自殺を止める”シーンです。


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前置きが長くなってしまいましたが、この映画は例外の部類だな。
というのも、冒頭部分では、“飛び降り自殺を止めるシーン”は出こないから。
冒頭、「社会の不公平・不公正を世に訴えるために、クリスマス・イブに飛び降り自殺をする」というジョン・ドゥと名乗る人物からの投稿文が新聞に掲載されるところから始まるので、それも仕方がないのかも。
ドラマのラストはクリスマス・イブ。つまり、飛び降り自殺を止めるシーンはラストまでおあずけなのです。

実はこの投稿記事、捏造です。
クビになりかけた女性記者アン(B・スタンウィック)が起死回生の策として、一人の架空の自殺志願者を創り出したのです。
それが意外なほど話題になり、アンはクビがつながります。調子に乗ったアンは、捏造記事を本物に見せるために、実在のジョン・ドゥを登場させようと提案、上司も承諾、オーディションをひらくことに。
そのオーディションで、アンの眼鏡にかなったのが若き日のゲーリー・クーパー扮するホームレスのウィロビーでした。
若き日の、といってもクーパーはすでに39才だったんだけど、僕的には初老になってからのクーパーのイメージしかなかったので、十分若く見えちゃったな。

お話は、『スミス都へ行く』と似たテイストを持つ諷刺に満ちた秀作でした。
彼の顔と名を冠した記事は大評判となり、ラジオに出演したジョン・ドゥーの「もっと隣人愛を!」という演説がきっかけで、各地に「ジョン・ドゥー・クラブ」が結成されていく。実はそこには新聞社社長D・B・ノートン(E・アーノルド)の、政治的野心があったのだけれど・・・・。

メディアの捏造と暴走という、いまだに古さを感じさせない普遍的テーマを鋭く衝いていることにまず感心。
また、「ウソから出たマコト」という言葉どおり、ジョン・ドゥ自身が虚像であるはずの自らが及ぼした影響の大きさに戸惑い、人々とのふれあいに真実を見出していくところも、いかにもキャプラらしい。
と同時に、情報操作・心理操作で右へ左へと大きくなびく世論の怖さをも再認識させてくれる。

今回の、衆院解散から投票日までが40日と異常に長く設定されているのも、ひとつの情報操作・心理操作だよね。
人は長考すればするほど保守的になっていく。そして無難な決断を下しがちになる。
つまり政府・与党に有利に働くというわけです(^^;。

そしていよいよ、注目のラストシーンがやってきます。
自分の言葉に共鳴して全国から手弁当で集まってくれた何千何万という人々に真実を伝えようとしたジョン・ドゥ。けれど、ジョン・ドゥの声を封印することなど、権力者には容易いこと。
絶望したジョンは、せめてクリスマス・イブに飛び降り自殺をして自分の真意を人々に伝えようとします。
そこへ、アンが病を圧して駆けつけます。さてさて。
この手の説得は、「やめて、飛び降りないで!」と懇願するばかりでは、相手の気持ちを変えることはできません。かえって逆効果。ムキになって飛び降りようとするのです(それを「ブーメラン効果」といいます)。
では、アンはどういう方法で説得したか・・・。
それを書きたいところなんだけど、なにせ映画のクライマックスですしね。
これは見てのお楽しみということにいたしましょうか。

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by kiyotayoki | 2009-08-15 11:32 | 映画(か行)