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映画の心理プロファイル

『幕末太陽傳』(1957 日活)

この映画を観るのは今回で3度目くらいだと思うけど、こんなに何度観ても楽しめる日本のコメディ映画は珍しい。
とにかくテンポがいいのだ。テンポが良すぎる映画はシーンとシーンがぶつ切れになりがちだけど、それもない。
このテンポの良さは、お話のベースが落語の『居残り佐平次』だから?
いや、やっぱり監督の腕と、フランキー堺という役者の類い希なるコメディセンスのおかげでありましょう。

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(110分)
監督:川島雄三
脚本:田中啓一・川島雄三・今村昌平 
音楽:黛敏郎
出演:フランキー堺
   石原裕次郎
   左幸子
   南田洋子

海外では『SHINAGAWA PATH』という英語タイトルで放映されていることを今回初めて知った。
「品川路」とか「品川宿」って意味なんだろうか。
舞台は、幕末(安政2年:1855年)品川の女郎屋。
品川は、江戸の表玄関。西国へ、そして西国から、武士から百姓、
はたまた裏の世界でしか生きられない連中まで、有象無象が町を行き交っている。
その吹き溜まりが街道筋に並ぶ女郎屋だ。

主人公の左平次は遊興代が払えずに女郎屋に居残っている男。
だけど悲壮感はこれっぽっちもない。それどころか、水を得た魚のようにイキイキとしてる。
というのも、左平次にとって金を稼ぐことなど朝飯前だからだ。
持ち前の図々しさと要領の良さ、そしてとびきりの才覚で、左平次は自分の立場を逆手にとって寝る間も惜しむように動き回り立ち回り、欲の亡者どもから金を吸い取っていく。

向かうところ敵なしの左平次だけど、唯一の弱みは当時不治の病だった労咳病みだということ。
それとて左平次は、調子に乗りすぎる自分への戒め(ブレーキの役割)としてプラスに受け取っている。
くよくよしたって始まらない。それより生きるのが先決だ、ともう前向きも前向き。
そんな左平次を見ていると、生命力の違いを痛感させられちゃう(^^;。
なにしろ「首だけになっても動いて見せまさァ!」って台詞を吐くようなヤツなんですから。

左平次ほどではないけれど、他の連中の生命力も半端じゃない。
若き日の左幸子や南田洋子が演じる女郎たちにしても、当時売り出し中の石原裕次郎扮する高杉晋作ら勤王の志士たちにしても、生きるのに貪欲で生命力にあふれてる。
まさに“太陽傳”。看板に偽りなしだ。
これは、昭和30年代初期という時代のせいもあるんだろうな。

そうそう、この監督がすごいなと思うのは、当時売り出し中の石原裕次郎や小林旭、二谷英明など当時の日活オールスターというか主役級の連中を脇役に使っているところ。
これには日活首脳陣も頭を抱えたんじゃないだろうか。

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お話には「居残り佐平次」以外にも「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「明烏」といった落語でお馴染みの廓噺が随所にちりばめられていて、落語ファンにとっても大いに楽しめる作品になっていますよ。
by kiyotayoki | 2010-03-12 10:28 | 映画(は行)