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映画の心理プロファイル

『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』(1971 米)

日本では38年ぶりの公開だというので、新宿武蔵野館まで足を運んだ。
アメリカン・ニューシネマに属する作品で、
いまだにカルト的な人気を博しているという噂の『ハロルドとモード』。
『少年は虹を渡る』というサブタイトルがついている。
監督は、おお、『さらば冬のかもめ』や『チャンス』のハル・アシュビーだ。

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原題:『HAROLD AND MAUDE』(92分)
監督:ハル・アシュビー
脚本:コリン・ヒギンズ
音楽:キャット・スティーヴンス
出演:バッド・コート
   ルース・ゴードン

映画は、いきなり主人公ハロルドの首吊り自殺シーンから始まる。
首を吊った直後、部屋の外から足音が聞こえてきて、母親が入ってくる。
「ああ、これで母親が悲鳴をあげながら駆け寄り、下から支えて息子を救出してめでたしめでたしか・・・」
と思いきや、母親は息子には知らんぷりで電話をかけ始め、電話を終えるとため息をついて出ていってしまう。
なんとハロルドは母親の前で自殺を演じる悪戯を趣味にしている若者だったのだ。
度重なる息子の狂言自殺に、母親はすっかり慣れっこになっていたのでした。

そんなエピソードから始まる、コミカルかつシニカルな作品。

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ひょろっとしたモヤシ体型で童顔のハロルドを演じるのは、バッド・コート。
当時、22歳ぐらいだったのかな。19歳の男の子を演じているんだけど、
もっと若く見えるほど童顔です。
この人は、アルトマン監督の『バード・シット』でも鳥のように空を飛ぶことを夢見る風変わりな若者を好演していたけれど、このハロルドもまさにハマリ役。
そのハロルドが恋をしてしまうのが、なんと79歳の小柄な(150㎝くらい?)おばあちゃん。
演じているのは、ルース・ゴードン。この時75歳。

2人の出会いの場は、埋葬の儀式を行っている墓地。
実は2人共、他人の葬儀に参列するのを趣味(?)にしていたのだ。
恋に落ちる条件のひとつに「価値観が同じか近いこと」があるけれど、2人は死に対する価値観が近かった。
それが60歳という年の差を乗り越えられた理由のひとつなのかも?
もうひとつ、2人には共通点があった。それは「見捨てられ感」。ハロルドは親から見捨てられていると感じていたし、モードは社会から見捨てられていると思っていたのじゃないかしらん。
ハロルドが狂言自殺を繰り返すのは、自己チューな母親に注目して欲しかったからなのだろう。
また、モードが天衣無縫に暮らしているのは世間が自分に無関心なら自分も勝手にいたしますわって感じなのかも。

とにかくモードおばあちゃんの天衣無縫ぶりは自殺マニアのハロルドも驚くほど。
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ハロルドだって金満家の母親からプレゼントしてもらったジャガーを霊柩車に改造して(意外にカッコイイ)乗り回している“変人”なのだけど、
モードは神出鬼没のおばあちゃんで、魔法の鍵(?)を持っていて他人の車を平気で拝借して乗り回すし、交通法規なんか完全無視(しかも無免許)(^^;。
白バイに追われても、警官の裏をかいて今度は白バイを拝借して逃げ出しちゃう。
そんなモードの謎めいた過去が一瞬だけど垣間見えるシーンがあった。

腕にアトランダムな数字が刻印(入れ墨)されていたのです。
モードおばあちゃんは、不幸な過去を持つユダヤ人だったということ・・・。
モードおばあちゃんの独自の死生観は、そんな過去から築き上げられたものだったのかな。

物語はいかにもアメリカン・ニューシネマ的な、やや唐突な終わり方をするのだけれど、
お話自体はテンポも良くユーモラスに進行するので、観た後に爽やかさを残す作品ではありましたよ。
ところどころに挿入されるキャット・スティーヴンスの曲も、懐かしい感じのするメロディでテンポを出すのに貢献しておりました。








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by kiyotayoki | 2010-07-28 12:34 | 映画(は行)