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映画の心理プロファイル

『ミケランジェロの暗号』(2010 オーストリア)

第二次大戦中、ホロコースト下のユダヤ人をモチーフにした映画というと、
残虐なナチスドイツの支配下で、理不尽かつ過酷な運命に翻弄されるユダヤ人の悲劇を
扱った作品がほとんどだけど、本作はそんなステレオタイプな想像をあっさりと覆してくれる作品だった。
スリリングなのはもちろんだけど、時に笑いさえも誘う、
意外性たっぷりのエンタテインメント作に仕上がっていたのだから。

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原題:『MEIN BESTER FEIND』(英語題:MY BEST ENEMY 106分)
監督・脚色:ヴォルフガング・ムルンベルガー
脚本:ポール・ヘンゲ
音楽:マシアス・ウェバー
出演:モーリッツ・ブライブトロイ
    ゲオルク・フリードリヒ
    ウーズラ・シュトラウス

舞台は、1938年のオーストリア・ウィーン。
この年の3月、オーストリアはナチスドイツによって併合されてしまう。
その3ヶ月後に精神科医のフロイトは命からがらウィーンを脱出して、ロンドンへ亡命した。
だけど、この映画の主人公はそうはいかなかった。

原題「MEIN BESTER FEIND」は、「私の最高の敵」という意味だそうな。
“私”とは主人公のヴィクトル、“最高の敵”とは彼の幼馴染でオーストリアがドイツに併合された後は
ナチスに入隊してしまうルディの事。

ヴィクトルは裕福なユダヤ人画商の跡取り息子、
ルディはその家の使用人の息子と立場は対照的。
兄弟の様に育ったことで、ヴィクトルは幼なじみのルディに心を許していたのだけれど、
一方のルディはヴィクトルに屈折した感情を抱いておりました。

そんな2人はレナという同じ女性に恋をするのだけれど、彼女は、金持ちぼんぼんのヴィクトルを選ぶ。
それが、ルディにナチス入りを決意させ、昇進のためにヴィクトルとその家族を危機に陥れる遠因になる。
ルディはSSの制服という「虎の衣」をまとったことで、ずっと隠してきた負の感情を解き放つチャンスを得たわけです。

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カウフマン家には国宝級の価値を持つミケランジェロの素描画が所蔵されていたのだけど、
ヴィクトルは酔った勢いで気心の知れたルディにそのありかを教えてしまうんですね。

ルディはSS入隊の手土産に、そのことを上官に通報してしまう。
すると上官は「名画をヒトラー総統に献上できる」と大喜び。
さっそくカウフマン家に出向き素描画を没収した上に、カウフマン家の人々を収容所送りにしてしまいます。

だけど、彼らは知らなかったんですね、実はヴィクトルの父ジェイコブが密かに贋作とすり替えていたことを。

後に贋作であることが判明し面子をつぶされたSSは、怒り狂ってルディに本物の奪取を命じるのですが、
そこから二転三転、荒唐無稽とも思えるドラマが展開し、お話は俄然面白くなってきます。

名画のありかを知っているのは収容所で死んだ父のみ。ヴィクトルも知らない。
けれどヴィクトルは母の命を救うため父の残した謎の遺言を頼りに、絵のありかを探りつつ、
ルディを手玉にとってハラハラドキドキの危険な駆け引きに出るのです。

思わずハラハラドキドキと書いてしまったけれど、
ユダヤ人のヴィクトルとナチスに取り入ったルディとの駆け引きが軽妙に描かれているので、悲壮感はあまりありません。
それにオチはほぼ予想できる。
だけど、そこにいたるまでの展開が二転三転して飽きさせないのがこの映画のいいところ。

鑑賞上の注意点としては、『ミケランジェロの暗号』という邦題から謎解きミステリーを期待してはいけないということ。
ユダヤ人の悲惨な歴史をベースにしたシニカルかつちょっとコミカルなヒューマンドラマだと思って観れば
楽しめること間違いなしです。

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by kiyotayoki | 2012-05-18 23:24 | 映画(ま行)