映画の心理プロファイル

『チェンジリング』(2008 米)

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原題:『CHANGELING』(142分)
監督:クリント・イーストウッド
脚本:J・マイケル・ストラジンスキー
音楽:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー
    ジョン・マルコヴィッチ
    ジェフリー・ドノヴァン

数々の映画でタフガイを演じ、また監督してきたクリント・イーストウッドだけど、21世紀に入って、もう男に“強さ”を求めるのは無理だと悟ったのか、真の強さを女性に求めるようになった感じがする。
2004年に公開された『ミリオンダラー・ベイビー』然り、そして、この映画然りだ。
一方で、男の強さはうわべだけ、見栄や対面、空威張りでしかないということを、これでもかと描く。優しさや、いい意味の女々しさを描くのも忘れてはいないけれど。
とにかくイーストウッドさん、78歳にしてまだ一カ所に止まってはいない。変化し続けてる。
そこが偉い。尊敬に値する人だ。

本作は、アンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えた、心が締めつけられるミステリー・ドラマ。
1928年、ロサンゼルスで実際に起きた事件を映画化したものだ。

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シングルマザー、クリスティンの家から、ある日突然、9歳の息子が消える。
5ヵ月後、遠く離れたイリノイ州で保護されるが、その子は息子とは似ても似つかぬ別人だった。
それをいくら訴えても警察はまったく取り合ってくれず、逆に彼女を異常者扱いにして精神病院に幽閉してしまう。

実は、観る前は不安だったのです。
予告編で、アンジー扮するクリスティンが金切り声(しかもドスのきいた)をあげるシーンがあって、
うわっ、これを2時間以上聞かされるのかと恐れをなしちゃったから。
お話がお話だけに、主人公はヒステリックにならざるを得ないものね。

ところがところが、やっぱり映画は観てみなきゃわからない。
142分の長尺の映画の中で、クリスティンが声を荒げるシーンは予告編のシーンと、もう一カ所しかなかった。
アンジェリーナ・ジョリーは終始激情を抑えた演技で、イーストウッド監督の演出に応えていた。
アカデミー賞はとれなかったけど、オスカー級の演技はしていたと思うな、彼女。

彼女が感情を抑えていたのは、時代がそうさせていたともいえる。
事件が起こった1928年は日本だと昭和3年。
大恐慌前夜で、時代が暗転する予兆が見え隠れしていたはず。
けれど、少なくとも米国では好景気がまだまだ続くと信じられていたようだ。
クリスティンもシングルマザーとはいえ、当時時代の最先端企業だった電話会社に勤めていたから
経済的には安定していたんだろう。
けれど、資本主義社会の腐敗ぶりは想像以上で。
官憲と悪徳業者や裏組織との癒着構造はこの当時からもう常習化・常態化してたんだね。
しかも、女性が参政権を獲得したのはつい8年前(英国はこの年、日本に至っては戦後)。まだまだ女性の地位は低い。
女性が警察に何かを訴えても、まともに扱ってもらえないというのが実状で、子供の行方不明などは親の責任、「9割方は翌日には家に戻る」という理由で24時間は受理さえしてくれない。
しかも女が警察が解決済みとした事件に異議申し立てをするなどもってのほかという時代だった。
しつこく言いつのれば、うむを言わさず精神病院の隔離病棟に押し込められてしまう。
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それでもクリスティンは諦めない。本物の我が子を取り戻すため、捜査ミスを犯した警察の非道な圧力に屈することなく真実を追及していく。
そんな彼女の味方になってくれるのがジョン・マルコヴィッチ扮する教会の牧師。
この人物も当初は反権力という名の権力を求める人って感じの設定かと思った。
なにしろ、演じているのがくせ者マルコヴィッチだからね。
だけどこっちもいい意味で裏切られたかな。

それに、事件はこれだけでは終わらない。
一方で、意外でサスペンスフルな展開がスネークインしてくるから、
ハラハラドキドキの緊張感が最後まで続く。
さて、イーストウッド監督、どうやってこの話に決着をつけたでありましょうか。
それは観てのお楽しみ、ということで♪

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ひとつだけイチャモンをつけるとしたら・・・・

映画のエンディングロールで、1935年のL.Aの風景が固定カメラで延々と映し出される。
街角の映画館にはこの年アカデミー賞をとった『或る夜の出来事』がかかっていて、
道路の中央では市電が行き交ってる。
お金をかけて当時の風景が再現されているわけだけど、延々と映ってるのに信号が一度も変わらないのだ。
どうせ凝るなら、一度くらい変えてくれればよかったのに・・・。
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by kiyotayoki | 2009-03-03 13:14 | 映画(た行)