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映画の心理プロファイル

『わが教え子、ヒトラー』(2007 独)

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原題:『Mein Führer
     Die wirklich wahrste Wahrheit über Adolf Hitler』(95分)
監督・脚本:ダニー・レヴィ
音楽:ニキ・ライザー
出演:ウルリッヒ・ミューエ
    ヘルゲ・シュナイダー
    シルヴェスター・グロート

Q「ピザとユダヤ人の違いは何?」
A「ピザはオーブンに入れても泣き叫ばない」

Q「ユダヤ人を百人フォルクスワーゲンに乗せるにはどうしたらいい?」
A「4人を座席に、96人は灰皿に」

ユダヤ人はジョークの天才だといわれている。
上の2つのジョークもユダヤ人の作だ。
しかし、ユダヤ人はなんでこんなに毒のある、しかも自虐的なジョークを作るのだろう。

それは、こうしたジョークを世に広めることによって、
彼らが被った悲劇を世の中の人に忘れさせないようにするためでもあるのだそうだ。
人は誰でも相手に都合のいい主張を押しつけられたら反発する。
だけど、ジョークだったらその中にこめられた主張も含めて案外簡単に受け入れてしまう。
ユーモアには相手の武装を解除する力があるのだ。そんな人間心理をユダヤ人たちは巧みに操って、自分たちの負の歴史を世界中の人々の心に深く刻み込ませているんだな。

この映画も、ユダヤ人監督が作ったユーモアをまぶした戦争喜劇だ。しかもかなりシニカルな。
その意味では、監督・脚本・主演したロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』(1998)と近しい味わいを感じる作品です。

『わが教え子、ヒトラー』(2007 独)_a0037414_1311458.jpg
1944年12月25日、連合軍の進攻によりナチス・ドイツは瀬戸際状態になっていた。
宣伝相ゲッベルスは、来る1月1日にヒトラーの演説を100万人を動員して行い、それをプロパガンダ映画に仕上げて起死回生を図ることを思いつく。
しかし、肝心のヒトラーは心身共に衰弱し、自信喪失状態。とてもスピーチなどできる状態ではなかった。
そこでゲッベルスは、わずか5日間でヒトラーを再生させるという大役をユダヤ人だが世界的俳優アドルフ・グリュンバウム教授に託すことにする。
そして、強制収容所からグリュンバウム教授が移送されてくるが…。

この映画のストーリーはフィクションだ。でも、ヒトラーに発声指導していた教師は実在したという。
監督はその史実を下敷きに、教師をユダヤ人に、時と場所を1944年12月のベルリンにすることで、奇妙な世界をつくり出すことに成功している(ただ、あちこちにちりばめられたユーモアが笑えるかどうかは別だけど)。
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ヒトラーというと、カリスマ性のある居丈だかな指導者のイメージが強い。
でも、ここでは幼い頃に父親に虐待されたトラウマから、孤独に苛まれ、父親に対抗して暴力を志向するようになった哀れな男として描かれている。
戦況が日に日に不利にになっていくのと比例して、心を病んでいくヒトラーがグリュンバウムとの交流によって癒され、彼なしでは生きていられないようになっていくところも面白い。

一方、グリュンバウムにとっては心千々に乱れる日々が続きます。
ナチスの総統ヒトラーを殺す絶好の機会が訪れたのに、ヒトラーの指導をする代わりに担保されている家族の安全を考えると大胆な行動には出られない。
また、自分に縋(すが)りついてくる“教え子”ヒトラーに憐憫の情さえ覚えてしまう。
心理学でいう「共依存」の関係になってしまうんだね。

特殊メイクで余計に哀れを誘う顔になったヒトラーを演じているのは、いかにもドイツ人って名前のヘルゲ・シュナイダーさん。コメディアンで、ジャズミュージシャンとしても活躍する、あちらでは有名な人のようだ。
そして、主人公のグリュンバウム教授を演じているのは、『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・ミューエさん。
この人、2007年の7月に亡くなった・・・、ということはこれが遺作となったのか。残念です。
by kiyotayoki | 2009-09-14 19:07 | 映画(わ行)